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富山家庭裁判所高岡支部 昭和50年(少)338号 決定 1975年10月13日

少年 N・H(昭三五・九・五生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(犯罪事実)

少年は、昭和四九年四月一日から県立○○学園(教護院)に入所中であるが、<1>同年七月二〇日から同年八月一日までの間、無断外出し、富山県○○○郡○○町の神社床下に野宿し、<2>昭和五〇年三月三一日午前三時頃から同日午後一一時四五分頃まで、無断外出し、<3>同年四月二九日午後七時すぎ頃から同日午後八時頃まで無断外出し、<4>同年七月七日午前三時三〇分頃から同月二〇日まで無断外出し野宿し、<5>同月二一日またも無断外出し、○○、○○あたりで野宿しながら徘徊していたものであるところ、別紙一覧表のとおり、同月下旬頃から同年九月一一日までの間前後七回にわたり、富山県○○○郡○○町○○○×××番地○瀬○光方納屋ほか五か所において、○瀬○光ほか六名の所有にかかる自転車四台ほか四点(時価合計約二二万円)及び現金一、〇〇〇円位を窃取したものである。

(罰条)

各刑法二三五条

(処遇理由)

少年は、小学校低学年から、問題行動、怠学が多く、小学四年のとき児童相談所で一時保護ののち児童福祉司指導となつたものの、その後も、人目を惹こうとする奇行が多く、中学二年のはじめから県立○○学園(教護院)に入所させられたが、入所中も奇行は止まないうえ、上記のような無断外出、逃走を繰り返し、本件窃盗事件を敢行したもので、知能は準普通域にあるが、社会性の発達の遅れを中心とした人格偏倚は大きく、被害感や不信感を根強く持ち、対人接触をきらい拒否的態度を示している(しかしながら精神病の所見はない)。このような少年の行動、性格は、乳児期からの父親の無関心と一方的折檻及び母親の放任等により親子間の情緒的融合、基本的信頼関係の欠如に由来するものと思われるところ、両親は少年の性格、行動に困惑し、タカガミ(天狗)の崇りによるものと考えるに至つている。

ところで本件は、富山県高岡児童相談所長から少年の上記犯罪事実冒頭掲記のような五回にわたる無断外出などの逃走癖は、職員との人間関係による教護の限界を越えているとして強制的措置の許可を申請してきた事件と、その後に検察官から送致された窃盗保護事件を併合したものであるが、同申請事件は、五回にわたる無断外出を虞犯事実として通告してきたものと解する余地もあるところ、少年の非行性の程度に鑑みれば、少年に対しては教護院における強制的措置だけでは不十分と言わざるを得ないので同申請は許可しないことにする。そこで虞犯事実について更に審按するに、同事実は、上記犯罪事実(窃盗)に具現したものと見られるので、本件では虞犯事実は窃盗事件の要保護性に関する事実として考慮するに止めることにする。

そうすると少年の健全な育成を期するためには、少年を少年院に収容して矯正を図るのを相当とするから、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条二項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 肥留間健一)

別紙 一覧表

番号

犯行日時

(昭和五〇年)

犯行場所

所有者

被害品

品目

数量

時価(約)

七月下旬頃の午後一時頃

富山県○○○郡○○町○○○×××番地○瀬○光方納屋

○瀬 ○光

自転車

一台

五、〇〇〇円

八月初旬頃の午後一〇時頃

同町○○○××××番地 ○野○治方

○野 ○美

同上

一台

五、〇〇〇円

同日頃の午後三時頃

同町○○×××番地 ○志○光○方物置

○内 ○子

同上

一台

五、〇〇〇円

四同月下旬頃の午前〇時頃

同町○○×××番地 ○本○ゲ方店舗

○本 ○ゲ

現金

一、〇〇〇円

同月二五日頃の午前〇時頃

同町○○精機車庫内

○崎○八○

軽四貨物自動車

給油券

バッチ

一台

一冊

一個

一〇万円

同月二九日頃午前〇時頃

同町○××番地 ○戸○雄方

○戸 ○雄

普通乗用自動車

一台

一〇万円

九月一一日午後一〇時頃

二に同じ

○野 ○子

自転車

一台

五、〇〇〇円

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